(死に関する随想 3) 死神

君は死神って信じるか。
フフンと鼻で笑ったな。まあ、聞いてくれ。

工学部の冶金学科と言うところの学生だった。
冶金学科、今は金属工学科とい言っている。
真面目な学生ではなかった。というより、冶金の勉強など、まったくする気がなかった。興味がなかった。
数学や物理化学の成績は良かったし工学部は就職率が良いという現実的な理由、ただそれだけで、工学部に入ってしまった。が、完全に自分の嗜好、関心というものを見誤っていた。
田舎の高校に通っていて悔やんだことは、まともな進学指導がなかったというただ一点だった。
とにかく、冶金学科の授業、実習など、単位が取れると踏んだ限りは、できるだけサボっていた。

いつものように午前の授業をサボっていた私は、午後からの授業に出るため、お昼早々と教室に入った。
誰もまだ来ていなかった。
気がつくと、ゴーゴーとすごいイビキのような音が聞こえる。
近寄ってみると、掃除のおばあさんが、並んだ椅子の上にに仰向けに寝ていた。
ただごとならぬ気配。抱き起こすと白目を向いていた。悪い予感が心をよぎった。あわてふためいて、近くの図書室の職員を呼び、事務室に連絡してもらった。授業が始まるときは教室の廊下の外に寝かされていた。終わったときには顔に白い布がかぶされていた。
予感的中。
始めて、死にゆく人に立ち合ったという異常な感覚で、しばらく、興奮していたようだ。

それでも、いつものように、大学の前の雀荘へ、いつもの仲間と一緒に繰り出した。
麻雀は強かった。イカサマ師以外にはほとんど負けなかった。正規の腕なら絶対負けないと過信しマージャンのプロになろうかなどと愚かなことを考えたりもした。
小賢しい奴の多い大学。皆、仲間はそれ相応に強かった。

でも、この日は違った。
つきにつきまくった。何をしてもうまくいった。
大勝する私にあきれて
「お前には死神がついている」と言い残して、皆、早々に立ち去った。
そうか、俺には死神がついていたのかと思わずニヤリとしてしまった。死神はギャンブルの神様を兼ねることもあるのか。
もう一度、ニヤリとした。

人生はあざなえる縄の如し。
幸と不幸は交互に訪れる。
死神なんか持ち出さなくとも、飛び切りの不幸を体験した後には、飛び切りの幸運が訪れるものさ。
無理やり、納得した。

今の私なら、死神説の方を絶対取るのになあ。
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by tsado4 | 2005-10-25 08:58 | 死に関する随想